神戸地方裁判所 平成6年(特わ)764号 判決 1995年6月16日
本籍
神戸市灘区琵琶町二丁目一〇番地
住居
神戸市長田区滝谷町二丁目三番一九号
会社役員
山本尚敏
昭和二六年一二月三日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官北英知出席のうえ審理して、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一年六月及び罰金二〇〇〇万円に処する。
右罰金を完納しえないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
被告人に対しこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、神戸市長田区滝谷町二丁目三番一九号において、「山本鉄筋工業」の名称で鉄筋組立請負業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て
第一 平成二年分の総所得金額が八六二四万四五八〇円で、これに対する所得税額が三七八八万九五〇〇円であるのに、実際の所得金額とは関係なく、ことさら過少な所得金額を記載した所得税確定申告書を作成するなどして、右所得の一部を秘匿した上、同三年三月一五日、神戸市長田区御船通一丁目四所在の所轄長田税務署において、同税務署長に対し、同二年分の総所得金額が一〇二〇万三四〇〇円で、これに対する所得税額が一三〇万四四〇〇円(ただし、申告書は一一九万九四〇〇円と誤って記載)である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の所得税三六五八万五一〇〇円を免れ
第二 同三年分の総所得金額が九〇七八万六一二五円で、これに対する所得税額が三九七〇万五九〇〇円であるのに、前同様の方法により、右所得の一部を秘匿した上、同四年三月一三日、前記長田税務署において、同税務署長に対し、同三年分の総所得金額が一一八八万五〇〇〇円で、これに対する所得税額が一四八万九二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の所得税三八二一万六七〇〇円を免れ
第三 同四年分の総所得金額が一億一五六六万四二五七円で、これに対する所得税額が五二四五万一二〇〇円であるのに、前同様の方法により、右所得の一部を秘匿した上、同五年三月一五日、前記長田税務署において、同税務署長に対し、同四年分の総所得金額が一〇八八万五〇〇〇円で、これに対する所得税額が一三七万五六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出しもって、不正の行為により、同年分の所得税五一〇七万五六〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)( )内の数字は検察官請求の証拠等関係カードの番号である。
判示全事実につき
一 被告人の公判供述
一 第一回公判調書中の被告人の供述部分
一 被告人の検察官調書(82)
一 被告人の大阪国税局収税官吏大蔵事務官に対する質問てん末書一六通(66ないし81)
一 山本美千代(三通)、松本清美(二通)、高田一郎こと高煕喆(二通)及び徳山金生の各大阪国税局収税官吏大蔵事務官に対する質問てん末書(55ないし62)
一 大阪国税局収税官吏大蔵事務官作成の査察官調査書四七通(8ないし54)
一 大阪国税局収税官吏作成の「所轄税務署の所在地について」と題する書面(63)
一 大阪国税局収税官吏大蔵事務官作成の「収税申告書の写しの提出について」と題する書面(64)
一 商業登記簿謄本(65)
判示第一の事実につき
一 大阪国税局収税官吏大蔵事務官作成の脱税額計算書(1)
一 大蔵事務官作成の証明書二通(4、5)
判示第二の事実につき
一 大阪国税局収税官吏大蔵事務官作成の脱税額計算書(2)
一 大蔵事務官作成の証明書(6)
判示第三の事実につき
一 大阪国税局収税官吏大蔵事務官作成の脱税額計算書(3)
一 大蔵事務官作成の証明書(7)
(法令の適用)
一 罰条 所得税法二三八条(懲役刑と罰金刑とを併科)
一 併合罪加重 懲役刑につき平成七年法律第九一号による改正前の刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重)罰金刑につき同法四五条前段、四八条二項
一 労役場留置 罰金刑につき同法一八条
一 執行猶予 懲役刑につき同法二五条一項
(量刑の事情)
本件各犯行は、被告人が、その自営する鉄筋組立請負業の所得が申告所得をはるかに超える所得があったことを知りながら、主として一家の将来の経済的安定を図るため、発覚しなければ幸いとの考えから、所得税を免れようと企て、顧問税理士を介して虚偽の所得税確定申告をし、その結果、判示のごとく三か年分の所得税合計一億二五八七万七四〇〇円を免れ、それにより免れた所得税相当分は、仮名あるいは借名の他人名義の預金や知人に貸し付けるなどして、その隠ぺいを図っていた事案である。本件各犯行の罪質、動機、態様、結果、殊に、ほ脱税額が多額であること、各年度のほ脱率が九六パーセントを超えていることに照らすと、被告人の刑責は相当に重い。
しかし、本件各犯行のほ脱の方法は、追及に備えてことさら巧妙な手段を弄していたものではなく、また、被告人は、本件各犯行の捜査にも協力的であり、公判においても率直に反省の態度を示し、ほ脱した所得税、重加算税などは納付済みである。被告人には前科が四犯あるが(昭和五二年六月に暴力行為等処罰に関する法律違反、監禁、傷害の罪で、懲役二年六月、四年間執行猶予、付保護観察に、昭和五四年三月に傷害罪で罰金一〇万円に、昭和五七年一月に道路交通法違反の罪で、懲役四月、四年間執行猶予、付保護観察に、平成元年一月に、業務上過失傷害罪で罰金八万円に各処せられているが、執行猶予はいずれも取り消されていない。)、税法違反にかかる前科はない。被告人は、かつて暴力団組員であったが、昭和六三年ころ堅気になって以後の生活態度は真面目であった。それに、被告人は、阪神大震災で被災し、自宅及び従業員寮四棟が滅失し、約六〇〇〇万円の損害を受けたほか、従業員への見舞金二三〇〇万円など多額の出費を余儀なくされた。今後は、震災復興に伴う仕事の受注はあるものの、単価が低く、人手の確保が困難であることから、経営の見通しは楽観できない状況にある。
当裁判所は、以上のような被告人のために酌むべき諸事情を十分に考慮して、量刑した次第である。(求刑 懲役一年六月及び罰金四〇〇〇万円)
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 政清光博)